マングローブって知っていますか?
海岸や川岸で、水に浸かってニョキニョキと生えている木やその不思議な形の根っこを想像される方も多いのではないでしょうか。その姿を台湾で見た時、根っこの形が不思議だなと思ったことから、色々マングローブについて調べて見たところ、面白いことがわかりました。
このマングローブたちの中には、不思議な戦略で子孫を残す仲間がいるんです。ご紹介させてください。
マングローブとは?
そもそもマングローブとは、熱帯や亜熱帯地域の汽水域に生息する樹木の仲間のことです[1], [2]。特定の種の樹木を指しているわけではありません[1], [2]。ハイマツPinus pumilaやチングルマGeum pentapetalumを「高山植物」と呼ぶように、遺伝的な親戚関係からの分類ではなく、生息している場所の区分によって分類された樹種植物群の一つです。
マングローブの分布

マングローブは自然分布では亜熱帯域、熱帯域に広く分布しています[1], [2]。
太平洋、インド洋では、東南アジア周辺を中心として、北は沖縄、南はオーストラリア北岸、西はアフリカ大陸まで広く分布します。特にヤエヤマヒルギRhizophora mucronataは、この範囲を網羅するように広く分布しています。また、大西洋では、アメリカヒルギRhizophora mangleやカズザキヒルギRhizophora recemosaといった種が、アフリカ西岸〜中南米に分布しています。
小見山(2017)は、ヤエヤマヒルギのように、単一の種の樹木がこれだけ広い分布を示すことは稀なことだろうと述べています[1]。言われてみると、確かにそんな感じがしますね。
マングローブの特徴
マングローブは、一般的に次のような特徴を持つとされています[1], [2]。
- 塩分に対する耐性を持つこと
- 気根を持つこと
- 胎生種子(胎生稚樹)を持つこと
しかし、すべてのマングローブ種がこれら3つの特徴を完璧に持ち合わせているわけではありません。そのため、マングローブの定義には様々な議論があり、専門家の間でも意見が分かれるほど複雑なようです[2]。
ここでは、研究者であるトムリンソンという方が提唱した、マングローブを構成する種の3つのカテゴリーをご紹介しましょう[1]。
- 主要マングローブ:耐塩性を持ち、気根や胎生種子を持つ種
- 準マングローブ:耐塩性は持つが、気根や胎生種子を必ずしも持たない種
- 随伴マングローブ:マングローブ林の外れの後背地や砂地に見られる種
この区分は、マングローブの多様性を示すものですが、その境界線は曖昧だと指摘されることもあります。しかし、主要マングローブに分類されるグループこそが、まさに私たちがマングローブと聞いて思い浮かべる典型的な姿、と考えていただいて問題ないと思います[1]。
念の為、以下に代表的なマングローブ種とカテゴリーを掲載します[1]。
| 塩耐性 | 胎生種子 | 根 | カテゴリー | |
| オヒルギ Burguiera gymnorhiza | ○ | ○ | ○ | 主要 |
| ヤエヤマヒルギ Rhizophora mucronata | ○ | ○ | ○ | 主要 |
| メヒルギ Kandelia obovata | ○ | ○ | ○ | 主要 |
| ヒルギダマシ Avicennia marina | ○ | ○ | ○ | 主要 |
| ヒルギモドキ Lumunitzera racemosa | ○ | × | ○ | 主要 |
| マヤプシキ Sonneratia alba | ○ | × | ○ | 主要 |
| ニッパヤシ Nypa fruticans | ○ | ○ | × | 主要 |
| サキシマスオウノキ Heritiera littoralis | ○ | × | ○ | 準 |
| オオハマボウ Hibiscus tiliaceus | ? | × | × | 随伴 |
カテゴリー分類も載せましたが、イマイチ私にはピンときません。とにかく、分類の話は脇においておきましょう。
ここで私が説明したかったのは、マングローブの特徴です。このうち、気根や耐塩性については、前回の記事で取り上げました。そこで、今回は、胎生種子について詳しく見ていきたいと思います。
胎生種子(胎生稚樹)とは何か?
それでは、胎生種子とは何なのでしょうか?
胎生種子は、「胎生」が持つ意味の通り、種子が親木についた状態で発芽し、胚を成長させた繁殖子(種子というより苗に近い状態)のことを指します[1], [2], [3]。これは、マングローブ以外ではあまり見られない非常に珍しい繁殖様式です[1], [2]。ただし、マングローブの中でも胎生種子をもつのは、3分の1程度と言われています[4]。
ちなみに、米やトウモロコシなど、一部の穀物では、十分に成熟した種子が、気温と湿度が高い状況で、収穫前に発芽することはありますが、これはあくまで偶発的な現象であり、繁殖様式としての胎生とは異なります[5]。

胎生種子が親木についている期間は非常に長く、沖縄のメヒルギK. obovataでは1年以上かけて成熟することが知られています[6]。また、フタバナヒルギR. apiculataでは、花芽形成〜胎生種子落果までの期間が23〜42ヶ月あることが知られており[7]、かなりの長い期間を親木の樹上で過ごすことがわかります。この期間中は、自ら光合成を行いながら、親からも継続的に栄養の供給を受けて、胎生種子は成熟していくと考えられています[8]。
しかし、なぜヒルギ科などのマングローブ種は、このような繁殖様式をとっているのでしょうか?
胎生種子:デメリットを上回る生存戦略か?
そもそも、一般に、種子が種子として散布されるのはなぜでしょうか? 胎生種子と比較した場合、主に次の3つのメリットが考えられます。
- 休眠による最適な発芽タイミングの選択
種子として休眠期間を挟むことで、気候条件が整い、生育に最適なタイミングで発芽を開始することができます。 - 長期的な貯蔵
種子として最適な環境にならない期間は、土の中で種子の状態で待つことができます。 - 大量生産による生存率の確保
個々の種子のサイズを小さくして大量に生産することで、一つ一つの生存率が低くても、種としての全体的な生存確率を高めることができます。
一方、胎生種子はすでに発芽した状態であるため、最適な環境になるまで「待つ」ということができません(ただし、2ヶ月ほど漂流しても生存可能[1])。一度定着した場所が不適な環境だった場合、枯死する可能性が非常に高くなることが予想されます。これは、移動できない植物にとって、一見すると大きなデメリットのように思えるかもしれません。さらに、胎生種子は光合成を行うとはいえ、親木は胎生種子と繋がっている間、その成長に必要な栄養を供給し続けなければなりません(スクロースの供給など[8])。もし胎生種子が枯死してしまえば、親木が投じた多大なエネルギーが無駄になってしまいます。
しかし、このようなデメリットを補って余りあるのメリットが、胎生種子には存在すると考えられます。胎生種子の最大のメリットは、休眠期間を必要とせず、植物にとって最も脆弱な生育の最初期段階を親木上で終えた状態で散布され、環境に適応しながら定着できる点にあると考えられます。これは、特にマングローブが生きる過酷な環境において、次の2つの点で非常に優れた性能を発揮すると考えられます[3], [9]。
- 酸素欠乏への対応
- 塩分変化に対応できる耐塩性の獲得
詳しく見ていきましょう。
1. 酸素欠乏への対応

親木で生育してから散布されることで、次のように酸素欠乏状態に対応できると考えられています。
- 水没時の生育阻害の回避
親木上で発芽し、ある程度成長することで、水位に対して、すでに高さを稼いでいるため、水没による発芽初期の酸素欠乏ストレスを回避されると考えられます[9]。 - 通気組織の発達
長く伸びる胎生種子の胚軸内部には、通気組織という空気を通すための細胞組織が発達していることが知られています[10], [11]。これは、酸素が少ない泥質土壌に刺さった際に、空気中の酸素を皮目という孔内部に取り込み、胚や根に供給するために適応したものです[10]。また、光合成でできた酸素を根に供給する仕組みがあることもわかっています[9]。 - 酸素の貯蔵
根では、酸素を外に拡散しにくくする組織が発達しています[11], [12]。
2. 塩分への対応

胎生種子における、塩分への対応は次のように行なっていると考えられています。
- 親木上での保護
親木に付着している期間は、潮汐に浸水することがないため、海水の塩分による影響を受けません。塩分に対して脆弱な時期に、高い塩分に曝露されずに生育することができます[3]。 - 耐塩性の獲得
樹上で耐塩性を獲得してから(?)、落果するため、生存率を上げることができます[3]。
獲得した耐塩性に関しては、胎生種子の方が非胎生の種子よりも高い(Cf. ツノヤブコウジAegiceras corniculatum vs. ベニマヤプシキSonneratia caseolaris)とされています[13]。
一方で、胎生種子の耐塩性は親木から離れてから獲得するという可能性も示されています。非胎生のマヤプシキSonneratia albaやベニマヤプシキSonneratia caseolarisも胎生種子ととても似た塩分排除機構を持っていることもその説を支持しています[4]。このことから、耐塩性の獲得は、胎生種子という仕組みによるメリットというより、汽水域という過酷な環境に適応する植物に必要不可欠な能力だと見るべきかもしれません[4]。
ただ、いずれにせよ、胎生種子という仕組みが普通の非胎生種子と渡り合えるほど、高塩分環境下で優れた戦略であることは確かです。
胎生種子の種類と散布方法
![胎生種子の種類(タイプ別)。谷口2020より引用[6]。図は馬場2017をもとに作成[14]。](https://finlandzukitabi.com/wp-content/uploads/2025/06/5-1024x768.png)
| 胎生種子のタイプ | マングローブ種 |
| 横向きに浮く | メヒルギKandelia obovata ヤエヤマヒルギRhizophora mucronata |
| 垂直に浮く | オヒルギBurguiera gymnorhiza |
| 沈む | ヒルギダマシAvicennia marina |
これはマングローブ全体で言えることかもしれませんが、胎生種子は、シンプルでありながら、とても面白い散布様式を持っています。
本当に、シンプルです。
胎生種子は成熟すると、木から落下します。落下するだけなのですが、ここに潮汐(潮の満ち引き)が加わることで、とても大きな効果を発揮します[1]。
つまり、落下した際に、
- 潮が満ちていた場合 → その場に生育
- 潮が引いていた場合 → 浮遊して広範囲に散布


ただ落下して、その場で生育すれば、親と同じ、適しているとわかっている環境で生育できる一方、種として広範囲に生息域を広げることができません。しかし、潮汐があることで、親の近くで生育する種を残して安全を確保しつつ、種としての生息域を広げる可能性を拡大させることもできるのです[1]。
私は、とても面白いと思うと同時に、これが、ヤエヤマヒルギなどが単一の種としては、かなりの広範囲に分布できた要因ではないかと感じました。植物として、とても上手な戦略なのではないかと感じました。
マングローブの胎生種子は注目されている??
このように特殊で巧妙な胎生種子ですが、現代において、その研究はさらに重要性を増しています。
実は現在、マングローブの胎生種子が研究対象として注目されています[1], [15]。その理由には、気候変動(地球温暖化)が深く関わっています。
マングローブ林は、他の森林に比べ、炭素固定の割合が高いことが知られています。その理由として、土壌中に酸素が不足しているため、土壌に溜まった有機物が分解されないことから、マングローブ林では、炭素の支出が他の森林に比べて小さいことが示唆されています[1]。つまり、マングローブ林を増やせば、二酸化炭素の大きな削減につながると考えられます。そのためには、マングローブの繁殖様式の理解は欠かせません。

近年、急激な開発によりマングローブ林が大きく減少しています。東南アジア諸国では、経済発展の途上で、外貨獲得を目的として、エビの養殖や木炭の生産、スズ鉱石の採掘が行われてきました[1]。その際に邪魔なものとして、あるいは原料として、伐採されたのが、マングローブです。マングローブは20世紀後半に大量に伐採されました。タイでは、1961年のマングローブの面積を100%とした場合、1996年には46%まで減少しました[16]。また、インドネシアでは1990年から2000年の10年間で25万haのマングローブが減少しました[16]。今では、世界各地で積極的に植林が行われていますが、元の形には戻っていません。
マングローブ林を取り戻すためには、マングローブの繁殖生態の理解は急務です。
そして、そのマングローブの 繁殖生態の中でも、胎生種子はマングローブ独自の繁殖様式です。それならば、と現在研究が進んでいるわけです。胎生種子のさらなる解明は、単に生物の神秘を解き明かすだけでなく、地球規模の環境問題、特に気候変動への対策とマングローブ林再生の鍵を握っているのです。
胎生種子について、もっと詳しいことがわかって、マングローブ林の復活につながるといいですね!!
まとめ
いかがでしたでしょうか。少しでも、マングローブに興味を持ってもらえることはできたでしょうか??
今回の記事では、マングローブのユニークな繁殖様式である**「胎生種子(胎生稚樹)」**に焦点を当ててきました。
- 胎生種子とは?
- 親木についた状態で発芽・成長し、苗のような姿で散布される、珍しい繁殖方法
- 沖縄のメヒルギでは1年以上かけて親木上で成熟することも。この間、自ら光合成を行いながら、親からの栄養供給も受けています。
- なぜ胎生種子なのか?そのメリット・デメリット
過酷な汽水域環境での生存率を高める!- 酸素欠乏への対応(水没回避、通気組織の発達、酸素貯蔵)
- 塩分への対応(親木上での保護、散布前の耐塩性獲得)
(最新の研究では、胎生が単なる塩分耐性への唯一の適応ではなく、より複雑な適応メカニズムの一部である可能性も示唆)
- 巧妙な散布方法
落下+潮の満ち引き→親の近くに定着+広範囲へ散布 - 現代社会における胎生種子の重要性
- マングローブ林は高い炭素固定能力を持つ
→マングローブの繁殖生態の理解は地球温暖化対策に不可欠!! - 経済開発などによるマングローブ林の減少が世界的な課題となる中、効果的な植林・再生には胎生種子の研究は急務!!
- マングローブ林は高い炭素固定能力を持つ
今回の記事を通じて、マングローブの面白い生存戦略とその生態の奥深さを感じていただけたなら幸いです。彼らの「命の戦略」を理解することが、地球の未来を支えられたり、支えられなかったり、ラジバンダリするかもしれないですね!!
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
参考になったら、SNSなどで共有してもらえると嬉しいです。
参考文献
- 『マングローブ林––変わりゆく海辺の森の生態系』小見山章著 2017 京都大学学術出版会
- 『マングローブ入門 海に生える緑の森』中村武久・中須賀常雄著 1998 めこん
- Kathiresan, Kandasamy, and Brian L. Bingham. “Biology of mangroves and mangrove ecosystems.” (2001): 81-251.
- Liu, C., Zhang, L., Shi, X., Tang, Y., Wang, M., & Wang, W. (2025). Element contents changes during the propagule development of two Sonneratia species. Frontiers in Marine Science, 11, 1430782.
- Fang, J., Chai, C., Qian, Q., Li, C., Tang, J., Sun, L., … & Chu, C. (2008). Mutations of genes in synthesis of the carotenoid precursors of ABA lead to pre‐harvest sprouting and photo‐oxidation in rice. The Plant Journal, 54(2), 177-189.
- 『北限に分布するマングローブの生理生態と再生』谷口真吾 2020 海外の森林と林業 No.108
- 『7章 マングローブ保全・再生のための留意点』小野 賢二&野口 宏典 2022国立研究開発法人 森林総合研究所https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/chukiseika/documents/5th-chuukiseika26-9.pdf
- Zhou, X., Weng, Y., Su, W., Ye, C., Qu, H., & Li, Q. Q. (2023). Uninterrupted embryonic growth leading to viviparous propagule formation in woody mangrove. Frontiers in Plant Science, 13, 1061747.
- 『海水で生育するマングローブ植物の生態と現状』北宅 善昭 2023 ソルト・サイエンス研究財団(https://www.saltscience.or.jp/images/2023/07/3-kitaya.pdf)
- Youssef, T., & Saenger, P. (1996). Anatomical adaptive strategies to flooding and rhizosphere oxidation in mangrove seedlings. Australian Journal of Botany, 44(3), 297-313.
- Phandee, S., Soonthornkalump, S., & Buapet, P. (2019). Morphological and anatomical responses of the common mangrove Rhizophora mucronata seedlings to flooding. Walailak Procedia, 2019(3), 45-45.
- Krauss, Ken W., et al. “Environmental drivers in mangrove establishment and early development: a review.” Aquatic botany89.2 (2008): 105-127.
- Wijayasinghe, M. M., Jayasuriya, K. G., Gunatilleke, C. V. S., Gunatilleke, I. A. U. N., & Walck, J. L. (2019). Effect of salinity on seed germination of five mangroves from Sri Lanka: use of hydrotime modelling for mangrove germination. Seed Science Research, 29(1), 55-63.
- 『マングローブ生態系探検図鑑』馬場繁幸監修 2017 偕成社
- 『マングローブ胎生種子の光合成特性と炭素源の探索』井上智美ほか 科研費https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-24K02102/
- 『マングローブ生態系の現状 と課題』馬場繁幸 2004 熱帯農業48(5)




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