こんにちは。ズッキーです。
台南に行ったとき、マングローブを見ました。独特な根の形を見た時にこう思いました。

「マングローブの根っこって、なんでこんな形をしているんだっけ??」
と。
↓台南でマングローブのトンネルに行った話
↓マングローブのタネの不思議
マングローブってなに?
マングローブの根について、見ていく前に、まずはマングローブとは何かについて軽く説明します。

マングローブとは、特定の植物の名前ではなく、熱帯や亜熱帯地域で海水と淡水が混じり合う汽水域(感潮域1)に生える樹木の仲間を指す名前です。ヒルギ科、ハマザクロ科、シクンシ科、クマツヅラ科、ヤシ科などの種類で構成されており、日本では鹿児島や沖縄に分布、また一部移植したものが静岡県下田市にも分布しています。世界的には、東南アジアや南アジア、アフリカ沿岸、中南米の沿岸域にも分布しています。

汽水域(感潮域)とは、海水と淡水が混じり合う領域のことです。つまり、この水域の水には濃度の差はあれ、陸上植物には対応できないほどの塩分が含まれています。このため、普通の植物は、汽水域で生きることができません。
マングローブは陸上植物との競争に敗れた結果、この汽水域に進出しました。

でも、マングローブはどうやって、この汽水域に進出することができたのでしょうか??
マングローブが塩分に対抗する仕組み
マングローブが海水から水を吸う仕組み
これを説明するためには、まず、植物が水を吸う仕組みを知ってもらう方が理解しやすいでしょう。

植物が水を吸う仕組みは、主に3つの能力によるものです。
- 細い管構造による、水の凝集力を利用して、水を保持する
- 葉からの蒸散により、水が出ていくことで負圧を生じさせ、管を通して水を引き上げる
- 細胞液の浸透圧が葉>茎>根>水となるように細胞液に傾斜をつける
今、挙げた植物の3つの能力について、軽く解説をします。
1つ目は、コップの上から息を大きく吸い込んでも、飲み物を吸えないのに、ストローだと吸えるのと同じ仕組みです。
2つ目は、蒸散により水が空気中に発散されると考えるとわかりにくいですが、ストローの出口で常に水を吸われているような状態です。
3つ目は、細胞に物質を選択的に透過させることで、植物体が細胞液の濃度を変化させて、水を根から吸いやすいようにしているということです。ここでは、「浸透圧」=「水を引き込む力の強さ」と覚えてください。生のお肉や野菜に塩をかけたら、水が出てくるのは、塩の「水を引き込む力」が強いからです。それと同じ仕組みですね。
これらの能力を駆使して、植物は水を地面から吸い上げているわけです。
ところが、海水には、約3%の塩分が含まれており、海水の方が植物よりも浸透圧が高い状態です。このため、植物は「水を引き込む力」で海水に負けてしまって、水分があるのに、水が吸えない状態になります(生理的乾燥状態)。
ここで出てくるのが、マングローブです。
次に話す内容は、大方予想はついていると思いますが、説明をさせてください。

この海水の浸透圧の問題を克服するため、マングローブは、細胞内のタンパク質や炭水化物を使って、各細胞組織の浸透圧を上げていると考えられています。これにより、海水より浸透圧を高め、海水から水を引き込むことができるのです。
ただ、これだけだと、しょっぱい水が体の中にパンパカ入ってきてしまいます。
注意してほしいのは、マングローブが好んで塩分のある環境に生息しているわけではなさそうだということです。小見山(2017)によると、マングローブは塩分の低い雨季によく成長することが年輪の幅からわかっています。ということは、マングローブにとっても塩分が少ない方が好ましい環境であることを示唆しています。
つまり、海水からも水分を吸えるマングローブといえど、塩分は体から排出しないと体に毒なのです。
マングローブが塩を排除する仕組み
そこで、マングローブは塩を排除する仕組みを作りました。この仕組みは大まかに2つの方法に分かれます。
まずは、1つ目。塩分を体内に入れない。

根で水を吸収する際に、塩分だけをフィルターしてブロックする仕組みがあるそうです。ヤエヤマヒルギやメヒルギなどは、この仕組みで塩分を排除するグループです。
次に、2つ目。塩分を排出する。( ・ଳ・ )vomit!

例えば、ヒルギダマシは、葉の両面に塩類腺と呼ばれる器官をもち、そこから塩を排出しているそうです。また、オヒルギやヤエヤマヒルギなどは、古くなった葉に塩分を溜めて、枯れ葉として落とすことで、塩分を体外に排出していると考えられています。
塩類腺といえば、ウミガメが涙を流す理由として有名ですが、ウミガメや海鳥のような動物ではなく、植物も塩類腺を持っていたなんて、知りませんでした! 驚きですね!!
これで、マングローブが汽水域に生息している理由がわかったと思いますので、本題に入ります。
マングローブの不思議な根の形

マングローブの根は不思議な形をしています。それはマングローブにとって、根がとても重要な働きをするからです。マングローブがどれだけ根に投資しているかは、その重量比から窺い知ることができます。
マングローブに関して、小見山(2017)は「根だらけ仮説」という説を提唱しています。
これは、
マングローブ林は、潮間帯で生きるために、現存量の配分を根に偏らせている可能性がある。
という主張です。
小見山(2017)はこの仮説の内容をグラフを使って説明しているのですが、私はもっとシンプルにしたかったので、箱ひげ図で表現することにしました。2つの論文の調査方法が異なるデータを比較しており、実情と異なる可能性はありますので、参考程度に見てください。
![マングローブ林の根の割合([根のバイオマス]/[樹体の総バイオマス])に関する箱ひげ図に世界の森林平均を追加した図。Komiyama et al. 2008とHuang et al. 2021を元に作成。箱ひげ図に使用したデータはKomiyama et al. 2008の表2のうち、above-groundとbelow-ground biomassが揃っているものを使用した。Huang et al. 2021による世界の森林平均はR/S比で表記されていたもの(0.25±0.10)を単純にR/(R+S)の式で変換して求めた。R/S比の測定方法については検討していないため、単純に比較できる数値ではないが、目安にはなると考えた。特に、小見山氏の「根だらけ仮説」では地上に出ている根も根として扱っているが、それをどのように扱うかは論点が分かれることには注意が必要である。](https://finlandzukitabi.com/wp-content/uploads/2025/06/5c6c056e2098a4152c52fe3619b5124c-1024x768.jpg)
この図の中央の箱ひげ図はマングローブ林の根の割合を表したものです。
(マングローブ林の根の割合)=(根のバイオマス)÷(樹木全体のバイオマス)
で計算しています。
箱ひげ図がわからない方のために、ざっくり説明すると、まず、箱ひげ図のひげの部分の上端と下端がデータの最大値と最小値を表しています。このデータを箱と真ん中の線で4分割しています。つまり、下のひげ、箱の下部、箱の上部、上のひげにそれぞれデータの25%が含まれています。
一方、右の緑のプロットは、一般的な世界の森林における根の割合の平均値と、その変動範囲を示しています。平均値は20%ですが、研究によって13%〜25.9%程度の幅があることがわかっています。
この図から、以下の3点がわかります。
- マングローブ林の75%は、根の割合が25%以上あること
- 根の割合が高いマングローブ林では、その樹体の半分以上が根であること
- 一般的な樹木の根の割合は20%程度であること
このことから、マングローブは植物体としてのかなりの部分を根に割り振っていることがわかります。これは、マングローブにとって、根がそれだけ重要な器官だということを示しています。
そして、その役割は根の形に表れています。
マングローブの根の形
マングローブの根の形は、大きく分けて4つに分けられます。

一つ目は、筍根(直立気根)と呼ばれるものです。地中から、まるでタケノコが生えているかのようにニョキニョキと根っこが顔を出しています。ムーミンに出てくるニョロニョロみたいでもあります。この筍根を持つ代表的な種は、マヤプシキSonnneratia albaやヒルギダマシAvicennia marinaです。

2つ目は支柱根と呼ばれる根です。タコの触腕のように、たくさんの根が地面に伸びて、樹体を支えます。この支柱根をもつ代表種は、ヤエヤマヒルギRhizophola mucronataやフタバナヒルギRhizophola apiculataです。

3つ目は膝根と呼ばれるものです。膝を曲げたような形から、このように命名されました。土の中で基本となるケーブル根と呼ばれる根に中継され、地上に根を出しています。

4つ目は板根と呼ばれる根です。板のように発達して、樹体を支えています。ロケットの羽のような、薄い板状の根が発達しています。代表種は、サキシマスオウノキHeritiera aureumやメヒルギKandelia obovataです。
マングローブが不思議な形の根を持っている理由
マングローブがこのような根の形態を持つのは、主に2つの理由からだと考えられています。
- 水気の多い土壌は不安定なため
- 呼吸のため
まずは、一つ目です。根の形の説明でも少し触れましたが、マングローブが生息する土壌は不安定です。それは、マングローブの生息域が潮汐の影響を受ける土壌であるためです。人間の家でも、地盤が緩いところの基礎工事はしっかりしないといけません。家が歪んでしまったり、崩れてしまったりするからです。木は上に伸びることで、日光を他の植物より多く得ることができますが、そのためには、土台が安定していなければいけません。

2つ目の理由は、同じく土壌の話です。マングローブが生息する土壌は、水を多く含むために、酸素の量が少ないです。陸上植物が多く生息する土壌は、土の粒子の隙間に空気を含んでいるのですが、濡れた土壌では、その隙間が水で埋まってしまっていたり、土壌が密になっていたりします。マングローブは、このような環境下で酸素を得るために、地上に根を伸ばしました。

根で酸素を使い、呼吸するというのは、あまりイメージが湧かないかもしれませんが、細胞というものは基本的に呼吸をしています。また、細胞が土の中から栄養や水を取り込むには、酸素を消費して、そのエネルギーを作り出します。このことからもわかる通り、植物にとって、根はなくてはならない器官であり、その器官が機能するためには、酸素は必要不可欠なものです。
これを補うため、マングローブの根の中には、空気が通るための空洞があります。私が写真で見る限りでは、鬆の入ったゴボウのような見た目をしています。この空洞の酸素を利用して呼吸をしていることが、根の中の酸素分圧を測定した実験からわかっています。

このように、呼吸をするための根のことを気根と呼びます。
また、一部のマングローブの植物では、根の部分で光合成することがわかっています。マヤプシキやヒルギダマシなどの筍根を持つ仲間や、支柱根を持つヤエヤマヒルギの仲間などで光合成が行われていることがわかっているそうです。

このように、マングローブは根を独自に進化させることで、汽水域(感潮域)という植物にとっては過酷な環境に適応し、生き抜くことができたんですね。
すごいですね!

まとめ
私がマングローブに出会ったのは小学生の時です。動物が好きで、イリオモテヤマネコに会いたくて、西表島へ行きました。動植物のことは聞き逃すまいと、バスガイドさんや仲間川の遊覧船のツアーガイドさんの話を必死にメモしていました。
台湾でマングローブを見た時に、
「あれ? あの時、根っこのことをメモした記憶がないぞ??」
と思って、調べたのがこの記事の始まりです。
いかがでしたでしょうか。
それではまとめます。
- マングローブは、熱帯・亜熱帯の汽水域(海水と淡水が混じり合う場所)に生える植物の総称で、日本では沖縄などに分布しています。
- 過酷な環境を生き抜く適応戦略: マングローブは、この特殊な環境に適応するために、複数の驚くべきメカニズムを進化させました
- 塩分対策:
- 細胞の浸透圧を海水よりも高めることで、塩分を含んだ水も吸収できます。
- 根での塩分ろ過、葉の塩類腺からの排出、古い葉への塩分蓄積と落葉など、多様な方法で体内の塩分濃度を調整します。
- 呼吸機能の確保:
- 地上に出た気根の内部には空気が通る空洞があり、効率的に酸素を吸収して根の呼吸を支えます。
- 一部の気根では光合成も行われることが分かっています。
- 不安定な土壌への定着:
- 筍根、支柱根、膝根、板根といった独特な形状の根は、呼吸機能だけでなく、潮汐で常に動く不安定な泥質土壌にしっかりと樹体を固定し、安定させる役割も担っています。
- 塩分対策:
〈結論〉
マングローブの根はすごい!!
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
参考になったら、SNSなどで共有してもらえると嬉しいです。
参考文献
- 『見ながら学習 調べてなっとく ずかん 根っこ』大山卓爾著 2023 技術評論社
- 『熱帯植物巡紀 観葉植物の原生地をめぐる熱帯・亜熱帯植生誌』田中耕次著 2013 誠文堂新光社
- 『マングローブ生態系探検図鑑』馬場繁幸監修 2017 偕成社
- 『マングローブ林––変わりゆく海辺の森の生態系』小見山章著 2017 京都大学学術出版会
- 『マングローブ入門 海に生える緑の森』中村武久・中須賀常雄著 1998 めこん
- Komiyama, Akira, Jin Eong Ong, and Sasitorn Poungparn. “Allometry, biomass, and productivity of mangrove forests: A review.” Aquatic botany 89.2 (2008): 128-137.
- Huang, Yuanyuan, et al. “A global map of root biomass across the world’s forests.” Earth System Science Data 13.9 (2021): 4263-4274.
- Mokany, Karel, R. John Raison, and Anatoly S. Prokushkin. “Critical analysis of root: shoot ratios in terrestrial biomes.” Global change biology 12.1 (2006): 84-96.
- Purnobasuki, Hery, and Mitsuo Suzuki. “Aerenchyma formation and porosity in root of a mangrove plant, Sonneratia alba (Lythraceae).” Journal of Plant Research 117 (2004): 465-472.
脚注
- 感潮域とは、海の潮が及ぶ範囲のこと。汽水域は海水と淡水が混じり合う範囲なので、微妙にニュアンスが異なります。ここでは、そこまで厳密に区別していません。 ↩︎




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