現在のサーミ人は、他の北欧の人々と同じように、現代的な家で、現代的な生活をしています。
それは、日本人が腰に刀を差してもいなければ、丁髷や銀杏返しに髪を結っているわけでもないのと同じことです。また、日常的に手裏剣を扱うサラリーマンもいませんよね。
それでも、着物や刀は、日本文化の象徴としてとても大切に扱われています。同じことが、サーミの服gáktiについても言えます。
この記事では、サーミ文化の象徴とされる民族衣装gáktiについて、わかりやすく説明していきます。
サーミの服ガクティに表れる文化の地域性
「サーミ」と聞くと、一つの民族として捉えがちですが、実際は、生活も文化も、とても多様です。
それが最もよく表れるのが、サーミの服 gákti / kolt です。
各地のサーミ人が集まるイベントでは、出身地域によって、デザインや装飾の違いが一目でわかります。それは、gáktiのデザインが、地域・村・家族の歴史を表すものだからです。
そのため、gáktiのデザインのシンボル的意味合いを理解せずに、異なる文化圏のサーミの服を混同して着ることは大変失礼なことになります。
さて、サーミ研究者のLehtola先生によると、フィンランドには、大別して、5つのデザインがあります。
- Eanodat style(Enontekiö)
- Anár / Aanaar Style(Inari)
- Ohcejohka Style(Utsjoki)
- Skolt Style(Sevettijärvi)
- Vuohčču Style(Vuotso)

詳しく見ていきましょう。
ガクティの基本構造:男性と女性の一般的な違い
地域の違いについて、ご紹介する前に、gáktiの基本となる服装について説明します。
- 上着(チュニックまたはワンピース型)
- ボトムス(ズボンまたはスカート)
- ベルト(編み込みまたは革製)
- 帽子(その人の出身地、性別、婚姻状況を示す最も重要な要素)
- 足元の履物(Nutukas/Nutukkaat)
- アクセサリー(銀ブローチ、ショール、手袋など)
| 男性 | 女性 | |
| 服の形状 | チュニック(青、黒、灰色など) +ズボン(皮製など) | ワンピース(青、黒など) /ブラウス+スカート(スコルト) |
| 襟と袖の装飾 | 地域の色で装飾 (赤、青、黄色など) | フリル / プリーツ / リボン |
| アクセサリー | 手袋(冬) +幅広の編み込みベルト /ボタン付きの革製ベルト | 手袋(冬) +ショール/ケープ +銀ブローチ/銀ボタン |
| 帽子 | Four Winds Hat / 耳当てつき帽子 | 赤い耳当てつきの帽子 / Horn Hat(スコルト) |
| 足元 | Nutukas/Nutukkaat (つま先が反りかえった靴) | |
この中で地域性がよく出るのは、帽子の装飾と形状、服の装飾と形状、そして装飾に使われる色です。このことを頭に置いて、ガクティのデザインを見ると、地域性がよく見えてきます。
フィンランド各地域のガクティのデザイン
Eanodat スタイル(地域:Enontekiö エノンテキオ)
サーミの衣装として、最もよく知られたデザインです。
北サーミの中でも、かつて山岳サーミと言われた人々の衣装です。その服には、細かい刺繍のリボンが多くあしらわれています。

男性は、リボンをぐるぐる巻きにしたような丈の高い帽子を被ります。帽子のてっぺんには、「Four Winds Hat」と呼ばれる4股の角がついています。

女性は耳まで覆う赤い帽子を被ります。
その装飾の色彩の高さから、観光客向けのお土産の絵葉書などの写真によく使われてきました。
Anár / Aanaar スタイル(地域:Inari イナリ)
イナリ・サーミの服です。
男性の服は、基本が黒色です。チュニックの服の裾は赤いところが、次に紹介するOhcejohka スタイルとは違うところです。帽子は「Four Winds Hat」を被ります。

女性の服も、黒が多いように見えます。裾は、赤・黄・緑色を組み合わせて装飾します。ショールは伝統的には白のものを着用します。帽子は赤色で、耳当て付きです。

Ohcejohka スタイル(地域:Utsjoki ウツヨキ)
イナリ・サーミの服に少し似ています。
男性は、刺繍のない赤いリボンに、黄色い筋が入ったシンプルな装飾が、肩や胸の部分についた服を着ます。帽子は「Four Winds Hat」を被ります。

女性は、赤いひだ飾りがついたシンプルなスカートを履きます。帽子は赤い耳当て付きのものを被ります。

Skolt スタイル(地域:Sevettijärvi セヴェッティヤルヴィ)
スコルト・サーミについては、特に女性の衣装が、他の地域とは、大きく異なります。
男女共に、ビーズ刺繍の装飾が特徴です。

男性は、他のサーミと似たチュニックを着ます。男性のスコルト・サーミに特徴的なのは、耳当て付きの帽子です。
女性の服は、カレリア地方の伝統的な衣装によく似ていて、サスペンダースカートとブラウスを着て、腰にはビーズ刺繍のベルトを巻きます。また、「Horn Hat」と呼ばれる婚姻状況がわかる帽子を被ります。
Vuohčču Style(地域:Vuotso ヴオッツォ)
19世紀の国境封鎖によって、国境付近の複数の地域から移動してきたため、山岳サーミの服の特徴を持っています。
イナリ・サーミに似た、カラフルな装飾が特徴です。

女性の帽子は、Eanodat スタイルに似た、刺繍付きのリボンが飾られています。

まとめ
各地のサーミ伝統衣装gáktiの特徴を表にまとめました。
| Eanodat (エノンテキオ) | Anár (イナリ) | Ohcejohka (ウツヨキ) | Skolt (スコルト) | Vuohčču (ヴオッツォ) | |
| 特徴 (男女共通) | 最も装飾的 | 黒基調 カラフルな布の縁取り | 赤リボン装飾 | ビーズ刺繍 | 混在デザイン |
| 女性の帽子 | 赤い耳当て付き帽 (刺繍リボン) | 赤い耳当て付き帽 | 赤い耳当て付き帽 | Horn Hat スカーフ | Eanodat型に類似 |
| 女性の服 | リボン装飾 | 赤黄緑の布の縁取り | 赤いひだ飾り | ブラウス サスペンダースカート | Anár型に類似 |
| 男性の帽子 | Four Winds Hat | Four Winds Hat | Four Winds Hat | 耳あて付き帽子 | Four Winds Hat |
| 男性の服 | リボン装飾 | 黒のGákti 赤黄緑の布の縁取り | 赤いリボンと黄色い筋 | 黒・灰色 | Enontekiöの影響あり。 |
gáktiは、現代でも晴れ着として使用されている、サーミのアイデンティティの象徴です。サーミ文化を尊重しながら、その伝統と歴史を楽しんでください。
※日本で手に入るサーミの資料が少ないため、追加の情報があれば、随時追加します。
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参考文献・サイト
- “THE SÁMI PEOPLE TRADITIONS IN TRANSITION” Veli-Pekka Lehtola 2004 translated by Linna Weber Müller-Wille UNIVERSITY OF ALASKA PRESS
- SÁMI DUODJI RY (https://www.samiduodji.com)2025.10.14 アクセス
- “Traditional Sami Dresses” albuma duohta sápmelaš (https://albmaduohtasapmelas.tumblr.com)2025.10.14



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