こんにちは。ズッキーです。
前回に引き続き、デルフトのフェルメール・スポットを回ります。
「お腹すいたなあ」と思いつつ、フェルメールの風景画『小路』のモデル地に向かいました。
フェルメール・センターへ
『小路』のモデル地の大体の場所は調べていたのですが、正確な場所がわからなかったので、フェルメール・センターにいきました。フェルメールの生涯について、解説しているミュージアムですが、本物の絵はないので、私たちは入場していません。

そのフェルメール・センターは、マルクト広場のメッヘレン亭跡の裏通りにあります(Voldersgracht 21)。

このときは知らなかったのですが、こちらのフェルメール・センターは、もともと聖ルカ組合の建物だったらしく、建物には “St. Luca Guild” の文字が刻まれています。
「なんじゃ、そりゃ?」
と思った方のために解説します。
聖ルカは新約聖書の中の福音書を記した聖人の一人。聖母マリアの絵を描いたとされることから、画家の守護聖人とされ、デルフトの画家組合でも、その名を冠しています。
そして、そのデルフトの画家組合で、フェルメールは最年少(30歳)で組合長を務めました。この建物が建ったのは1661年で、フェルメールは1662〜63年および1670〜71年に組合長に就任しています。つまり、フェルメールもこの建物にいたかもしれないわけで、フェルメール縁の地と言えそうです。
閑話休題。
私たちは、フェルメール・センターで『小路』のモデル地の位置を尋ねました。職員さんは、快く教えてくれて、地図もくれました。
場所は、フェルメール・センターから運河沿いにまっすぐ北東方面に進んだところにあります。

あとで調べたら、Google Mapsにも載っています。
『小路』のモデル地へ行く
『小路』というのは、フェルメールの風景画の一つ。
フェルメールの風景画は、わずか2つしか見つかっていないので大変貴重です(昔の記録上は3つの絵がある)。今はアムステルダム国立美術館(Rijksmuseum)に収蔵されています。
▶︎詳しくはこちら|アムステルダム国立美術館のフェルメール3作品を解説
最有力モデル地「Vlamingstraat 40-42」
デルフトは少し中心地から外れると、閑静な住宅街になっています。
運河沿いに車が並んでいるところが、ちょっと手狭な感じがしないでもないですが。

トコトコ歩いていると、すぐに目的の場所につきました。住所は、「Vlamingstraat 40-42」というところなので、このままコピペして検索すれば、すぐに出てきます。

しかし、絵と比べてみると、雰囲気はあるような、ないような。

それもそのはず。この絵のままの建物は残っておらず、「絵の場所がどこか?」という問題は、専門家の間で、長い間ずっと議論され続けているのです。

フェルメール・センターで紹介してくれた「Vlamingstraat 40-42」は、2015年にGrijzenhout氏が唱えた説。
Grijzenhout氏は1667年の税台帳(運河の護岸や浚渫にかかる税を算定するための記録)を調べ、そこに記録された運河沿いの家屋や門の寸法から、運河沿いの家屋の中で、2軒の家屋の間に2つの門が隣接している場所が「Vlamingstraat 40-42」のほかにないと判断しました。また、右側の家には、フェルメールの叔母 Ariaentgen Claes が住んでいたことも判断材料にされました。
ただ、Heidi de Mareが指摘しているように、
- この『小路』が運河沿いであるという前提が正しいかどうか?
- 税台帳の配置と絵の中の建物の配置が同じ=場所が同じとしていいか?
- 絵がどこまで写実的か?
- 親族が住んでいたことが根拠になるのか?
など、疑問が残るのも確かです。
『小路』のほかのモデル地
では、ほかにどのような候補地があるのでしょうか。『フェルメール全点踏破の旅(2006)』では、ほかに3つのモデル地候補が紹介されています。
- Oude Langendijk 25(Maria van Jessekerkの近く)
- Voldersgracht 19 – 20(フェルメール・センターの隣)
- Voldersgracht 21(フェルメール・センターあたり)
ただ、こうなってくると、どこがフェルメールが描いた場所なのか、わからなくなってきます。
私の考え:どのモデル候補地が尤もらしいのか?
Grijzenhout氏の元の文献が読めなかったので、細かい原文の内容はわかりません。
なので、ここからは私の意見です。
まず、私が知るモデル候補地は、ここまで解説した4つしかありません。4つの中でどれが尤もらしいでしょうか。
『デルフトの眺望』を見る限り、フェルメールは構図を調整しながらも、実在する景色をもとに描いているように思えます。もちろん、『小路』でも同じように描いているとは限りませんが、建物の配置や構造を大きく変えているとは考えにくいのではないでしょうか1。
Grijzenhout氏のすごいところは、
「1667年の税台帳を調べ、運河沿いにあるすべての家の中から、絵と同じ配置(家・門・門・家)と寸法を持つ場所はVlamingstraat 40-42しかない」
と突き止めた点です。
この情報に基づいて、もう一度4つの候補地を見てみます。
- Vlamingstraat 40-42
- Oude Langendijk 25(Maria van Jessekerkの近く)
- Voldersgracht 19 – 20(フェルメール・センターの隣)
- Voldersgracht 21(フェルメール・センターあたり)
Grijzenhout氏の調査によれば、運河沿いの家屋の中で、絵と同じ配置・寸法を持つ場所は「Vlamingstraat 40-42」しかありません。ということは、ほかの候補地も運河沿いにある以上、当時の家屋配置が絵と一致しないのであれば、候補から外れることになります。
当初、私の記憶では、「Oude Langendijk 25」は運河がなく、それ以外はすべて運河沿いの家だと思っていました。
ところが、ふとGoogle Mapsで確認してみると、「Oude Langendijk 25」の前にも小さな運河があります。これを1649年の地図で見ると、一目瞭然で運河沿いにあります(現在は一部が埋め立てられている模様)。

つまり、4つの候補地はすべて運河沿いに位置していたことになります。
もし、これら4つの候補地がすべてGrijzenhout氏の調査対象に含まれており、当時の家屋配置も確認できているのであれば、残る候補地は「Vlamingstraat 40-42」しかないことになります。
なるほど〜!!
もちろん、今後、新たな資料によって別の候補地が浮上する可能性はあります。しかし、少なくとも私が知る4つの候補地の中では、「Vlamingstraat 40-42」が最有力候補と考えられそうです。
ということで、私も「Vlamingstraat 40-42」説を支持することにしました。
なぜフェルメールは『小路』を描いたの?
小林頼子さんの『フェルメール –– 謎めいた生涯と全作品』を見てみましょう。

小林さんによると、絵に描かれた右側の家の破風(銃眼のある階段状の正面壁)は、オランダやフランドル地方を旅行しても、資料の中でも、あまり見られない珍しいもので、16世紀前半の様式だそうです。デルフトは、1536年の大火災&1654年の火薬庫爆発によって、街の大部分が破損したため、1536年以前の建物が少なかったそう。
この建物は、そんな古きデルフトを偲ばせる建物として、デルフトの民に知られていたものではないか、と。
フェルメールが復興後の数ある新しい家を描かずあえてこの古めかしい家を描いたとすれば、そこには何らかの選択の理由があったはずだ。
『フェルメール –– 謎めいた生涯と全作品』より
もし「Vlamingstraat 40-42」がモデル地で、右側の家に住んでいたのがフェルメールの伯母だったとすれば、フェルメールにとって身近な場所だった可能性があります。
私の勝手なイメージでは、フェルメールは郷土愛のある人です。
もし自分の町を象徴するような古い家が、親族の住む家でもあったなら、そこを描こうとした理由の一つになったのかもしれません。
まとめ
- 調べた範囲では『小路』のモデル候補地は4つある
- 2026年現在は「Vlamingstraat 40-42」説が最も有力
- Grijzenhout氏は、1667年の税台帳を調べ、運河沿いにあるすべての家の中から、絵と同じ配置(家・門・門・家)と寸法を持つ場所はVlamingstraat 40-42しかないことを突き止めた
絵の名前『小路』、『小路』言ってたけど、競売にかけられたときの名前『デルフトの一軒家の眺め』らしいです。
それでは〜!
参考文献
- de Mare, H. The image as historical source.(2026.9.26アクセス)
- “In the footsteps of Johannes Vermeer: wander through the Delft of the ‘Sphinx’” Vermeer Centrum Delft(2026.9.26アクセス)
- “You can still visit these Vermeer locations in Delft” Vermeer Centrum Delft(2026.9.26アクセス)
- 『フェルメール全点踏破の旅』朽木ゆり子著 集英社新書 2006
- 『一冊でわかるオランダ史』水島治郎監修 河出書房新社 2023
- 『フェルメール –– 謎めいた生涯と全作品』小林頼子 角川文庫 2008
脚注
- 『小路』は風景を写実的に描いたのか??
『フェルメール全点踏破の旅』(2006)にはこうあります。
フェルメールの絵は、リアリスティックに描いたように見えて、現実を絶妙に作り替えている。《小路》は、実在の風景ではなく、いくつかの要素を組み合わせたものだというのが、現在専門家に受け入れられている見解だ。
このように、朽木ゆり子さんの本に書かれている内容は、私の見解とはズレますので、皆さんも自分の信じる『小路』を探してみてください。 ↩︎



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