こんにちは。ズッキーです。
競馬や乗馬に関わったことがある人間として、ずっと気になっていたことがあります。
それは「馬肉」のことです。
競馬を引退した馬は、成績を残した馬は種牡馬や繁殖馬になり、それ以外は乗馬になることもあれば、食肉やペットフードになるという話を耳にしていました。
でも、そもそも、肉用の馬が育てられているのも見たことがありません。一般に私たちが食べる馬肉はどういう馬の肉なのでしょうか。
競走馬に関わったことのある人間として、こんなに曖昧なままでいいのだろうか、と長年思っていたのです。そこで、今回は、フィンランドには関係ないですが、日本の馬肉事情について調べてみることにしました。
説教くさい話はしません。ただ、淡々と事実を見ていきます。
結論だけ先に言うと、引退した競走馬が食肉になるケースはあるようです。
ただし、
- 競走馬以外の馬もいる
- 海外から輸入される馬も多い
- すべての競走馬が馬肉になるわけではない
という事情があります。
では、その仕組みを順番に見ていきましょう。
馬肉はどこで作られるのか
国内の馬肉産地
国内の馬肉産地で有名なのは、熊本県、福島県など。
実に、馬肉生産の約9割が九州と東北で生産されています(それぞれ約54%、35%)。
また、馬肉を食べる県として、有名なのは、熊本県、福島県、長野県などです。
| 都道府県 | 2024年の馬の屠畜数 (枝肉生産量) |
| 熊本 | 4,215頭 (1,855.0 t) |
| 福島 | 2,095頭 (919.7 t) |
| 福岡 | 1,180頭 (518.9 t) |
| 青森 | 955頭 (420.0 t) |
| 山梨 | 614頭 (269.6 t) |
| その他の都道府県 | 898頭 (394.8 t) |
| 全国合計 | 9,957頭 (4377.8 t) |
以前は、馬の屠畜数・枝肉重量に関しては、5位に長野県が入っていましたが、2024年のデータでは13位。
それでも、長野の居酒屋に行くと、馬肉が普通にメニューにあります。
ここまで、国産の馬肉生産量について、見てきましたが、日本で食べられる馬肉は、国産のものだけではありません。実は、国産の馬肉は、全体の38%程度しかないのです。
(そういえば、以前、私が食べた馬肉もフランス産でした!)
海外の馬肉産地
というわけで、国内で消費される馬肉の輸入先を見ていきましょう。
| 馬肉の輸入先 | 部分肉重量 (割合%) |
| 国産 | 2,846 t (38%) |
| ウルグアイ | 1,154 t (15%) |
| ブラジル | 1,121 t (15%) |
| アルゼンチン | 1,032 t (14%) |
| カナダ | 652 t (9%) |
| その他 | 717 t (10%) |
ちょっと重量が少なく感じるのは、枝肉重量に骨が含まれるのに対して、こちらの重量からは骨の大部分が除去されているからです。
さて、以前は、輸入先としては、カナダが一番でしたが、やはり円安の影響でしょうか。1番の輸入先は、中南米のウルグアイになっています。
こうしてみると、「へえ〜、結構輸入が多いんだな」とわかります。しかし、国産の馬肉に関しても、輸入の馬を使っていることがあります。
というわけで、次は、肉用馬の生産の流れを見ていきます。
肉用馬の生産の流れ
そもそも日本で、馬を繁殖している場所はそこまで多くありません。
飼養頭数でみると、北海道が全体の44%を占め、トップです。
| 都道府県 | 馬の飼養頭数 |
| 北海道 | 34,482頭 (44%) |
| 熊本 | 4,572頭 (6%) |
| 茨城 | 4,344頭 (6%) |
| 滋賀 | 4,146頭 (5%) |
| 千葉 | 2,479頭 (3%) |
また、飼養頭数の上位5県を見ると、飼養頭数と屠畜頭数が必ずしも一致しているわけではないことがわかります。
たとえば、熊本を見ると、飼養頭数4,572頭に対して、屠畜頭数4,215頭。
馬は一産一頭なので、人工授精をしたところで、到底、繁殖頭数を県内で賄いきれません。国内であれば、北海道から持ってくるわけですが、もう一つのルートとして、カナダから2歳前後の馬を輸入するのが一般的です(『馬肉新書』より)。
つまり、若い馬を海外から買ってきて、それを肉用に肥育するわけです。
ちなみに、2024年度の肥育用素馬の輸入頭数は、3,218頭でした(日本家畜輸出入協議会『2024年度3月分 – 月別・種類別輸入頭数』より)
まとめると、日本に流通する馬肉の生産ルートは3つあります。
- 国産(日本生まれ×日本育ち)
- 国産(海外生まれ×日本育ち)
- 海外産(海外生まれ×海外育ち)
と、ここまで分かったところで、最初の疑問に立ち返りましょう。
すなわち、「『競馬を引退した馬は、馬肉になる』というのは本当か?」という疑問です。
ここまで見てきた中で、お察しのとおり、
引退した競走馬が食肉になるケースはあるようです。
馬肉の種類

結論に入る前に、もう少しだけ寄り道させてください。
馬肉には種類があります。
馬肉には、サシの入っている肉(脂が筋肉の隙間に入っていること)と赤肉と呼ばれる脂の少ない肉があります。そして、この2種の肉の流通には地域差があります。
- 熊本:サシが入っている肉
- 福島(会津):赤身の肉
実は、サシか赤身かで馬の種類も違います。
- 熊本:サシが入っている肉 ←重種馬
- 福島(会津):赤身の肉 ←軽種馬
そして、この軽種馬に含まれているのが、競馬で活躍するサラブレッドです。
馬肉になる馬の種類
もう少し詳しく見ていきましょう。
重種馬(ブルトン、ペルシュロン、ベルジャン、ペルブルジャン)

肉用に供される重種馬の主な品種は、「ブルトン」「ペルシュロン」「ベルジャン」です。これらの交配種である「ペルブルジャン」も肥育されています。
出荷時の体重は800kg〜1tで、この体重こそ、重種馬という名前の由来。
重種馬は、輸入が多いようです。
こいつら、顔がかわいいんだよな〜。
軽種馬(サラブレッド、アラブ)←競走馬

一方、軽種馬は、「サラブレッド」や「アラブ」などが主要な品種。
体重は、出荷時点で600kg前後。私たちが競馬で見るサラブレッドの体重が450〜500kgくらいのイメージなので、ちょっと肥らせてから出荷するのでしょう。
『馬肉新書』には、3〜5歳のサラブレッドを仕入れると記載されています。競走馬の引退年齢とも一致するため、引退した競走馬が食肉として利用されているケースはあると考えられます。
ちなみに、アラブ馬は目のあたりがちょこっと膨らんだ馬で、馬界のデメキンだと私は思っています。
軽種馬は、お尻の形が綺麗ですね。
かっこいい。
……ただ、それが肉になると思うといろいろ切ない。
引退した競走馬は馬肉になっていそう……
馬肉と日本の文化

「馬肉食は日本の文化だから、何を悲しむことがあろうか」
と言われると、それもちょっと難しくて。
日本人という大きな括りで見ると、馬肉は日本の文化と言い切れません。
『肉食の社会史』という本によると、平安時代には、罪人に馬肉を食べさせるという刑が行われたくらい、日本の都周辺では、馬肉を食べることが忌避されていたようです。馬が人間の代わりに働いてくれる労働力として、重宝されていたからだとされています。
室町時代にも、死んだ牛馬の肉を食べるのは、身分の卑しい者だという記述があります。江戸時代には、肉を食べるお店も現れますが、「マジけしからん」と言われたりしています。明治に入るまでは、都の近くでは、肉食自体を忌避する人も多かったようです。
なので、東京にある馬肉料理の老舗は、明治創業のお店が多いと思います。
つまり、もともと熊本や福島のような都から離れた一部地域では、馬肉が根付いていたものの、そのほかの地域では、西洋文化が入ってきて、肉食が許容されるようになってから、馬肉が広まったと考えるのが妥当かなと思います。
海外の馬肉文化
馬肉を輸入していることからもわかる通り、海外でも馬肉を食べる国はあります。
主要な生産国は、中国、カザフスタン、メキシコなどですが、輸出入でみると、次の表のとおりです。
| 輸入国 | 輸出国 | |
| 1位 | イタリア (28,962 t) | アルゼンチン |
| 2位 | ロシア (25,562 t) | ベルギー |
| 3位 | ベルギー | カナダ |
| 4位 | フランス | メキシコ |
| 5位 | オランダ | ポーランド |
| 6位 | スイス | モンゴル |
| 7位 | 日本 | ウルグアイ |
| 8位 | カザフスタン | オランダ |
| 9位 | フィンランド | ルーマニア |
| 10位 | ルクセンブルク | フランス |
イタリアやフランスなどは馬肉を食べる国として有名ですね。
オランダは「輸入+生産量」と「輸出量」が同じくらいなので、貿易の経由国としての役割が大きいのかもしれません。ベルギーも国内消費もありますが、輸出がほとんどです。
しかし、フィンランドは何用だろう。
馬肉を食べるという話は聞いたことないし、ペット用かな??
(と思ったら、”Hevosen kylmäsavupaisti:馬肉の冷燻ロースト”や”Hevosenmakkara:馬肉ソーセージ” などの形で売られているみたい。知らなんだ!)
▶︎(馬関係の趣味記事)窮屈な馬乗り:サイドサドルが強制した”女性らしい”乗馬と解放の歴史
まとめ:競走馬は引退して馬肉になるのか?
Q. 『競馬を引退した馬は、馬肉になる』というのは本当か?
A. 引退した競走馬が食肉になるケースはあるようです
調べてみて、馬に関わったことのある人間なら、知っておいた方がいいことだな、とやっぱり思いました。
人間の享楽のために、馬が肉になるって思うと切ないですね。
でも、馬乗りにしても馬に負担をかけながら、馬と触れ合っているわけで、人間と馬の関係って常にこういう葛藤の中にあるものなのかもしれません。
まあ、こういう割り切れないところが、人間らしさなのでしょう。
それでは〜!
参考文献
- 『基本知識と技術、保存版レシピ集 馬肉新書 知られざる馬肉のすべて』社団法人 日本馬肉協会 監修 旭屋出版 2013
- 『肉食の社会史』中澤克昭 山川出版社 2018
- Belaunzaran, X., Bessa, R. J., Lavín, P., Mantecón, A. R., Kramer, J. K., & Aldai, N. (2015). Horse-meat for human consumption—Current research and future opportunities. Meat Science, 108, 74-81.




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