私がフィンランドでツバメを釣ろうとしたわけ:北欧の冬の釣り体験と歴史を紐解く珍妙な大発見

フィンランドで体験したアイスフィッシング 文化・生活

 こんにちは。ズッキーです。

 変な話です。本当に変な話です。

北欧の鳥は冬眠する??

 昔、R・ロビン・ベーカーという人の『鳥の渡りの謎』(1994)という本を読みました。そこには、鳥の渡り(渡り鳥が季節的に移動すること)に関して、このような記述があります。

鳥の渡りを解明しようという試みは、二二〇〇年ほど前の、ギリシアの哲学者アリストテレスの著作の中に初めて現われる。

(中略)

アリストテレスがある季節に鳥がいなくなる理由として挙げているのは、残念ながら次の二つのことだ。

(一)ある種の鳥は冬ごもりすることによって寒さを逃れる。(二)また別の種の鳥は他の種に変化するために冬の到来とともに姿を消す。この種の鳥は、冬の間渡りもせず、また冬ごもりもしない。たとえば、シロビタイジョウビタキがヨーロッパコマドリに変化する。

 特に2番目の説は、現代人からしたら、信じられない考えかもしれないですが、当時はそのように真剣に考えていたわけです。

 この流れの中で、16世紀に、1番目の説を援護するかのような報告が上げられました。それは、スウェーデンのウプサラ大司教オラウス・マグヌスが『北方民族文化誌』(1555)という本の中で記した内容です。その中で、「ツバメは水中で冬を過ごす」ということが確信を持って書かれている、とベーカーは述べています。

さまざまな自然界のことを書く者は、ツバメが滞在地を替えること、すなわち、そろそろ冬になりかけた頃、もっと暖かい地方へ彼らが移ることを記録に残しているけれども、北方の河川では漁師たちがツバメの大群を水中から引き上げることがよくある。

北方民族文化誌の挿絵。漁師が越冬中のツバメを網で引くところ
北方民族文化誌の挿絵。漁師が越冬中のツバメを網で引くところ

(『北方民族文化誌』オラウス・マグヌス著 1555年 谷口幸男訳 渓水社 p.446)

 また、18世紀には、リンネ、ジョン・ラインホルト、フォルスター、キュヴィエ男爵、ジョフロア・サンティレール、ダイネス・バリントン閣下など、当時の著名な博物学者が、実際に水中で越冬中のツバメを見たと主張して、鳥の水中越冬説を支持しました。

 こうした学説が当時まことしやかに信じられた背景には、鳥の行動の観察の難しさがあると私は思います。つまり、鳥は空を飛べるので、どこへ飛んでいったかを調べることは容易なことではありませんでした。温かい土地へ飛んでいくことを信じていたとしても、それなりの地位にある有名人が「水中で越冬していたのを見た」と主張したら、簡単に否定できるものではないでしょう。

 ここに挙げられているリンネといえば、「動植物に二名法(属名と種小名で種を特定できる)という方法で名前(学名)をつけて、これを世界共通の名前とすることで、同一生物が地域ごとに呼び名が違っても、同じ生物かどうかがわかるという仕組み」を作った人物として有名です。そのリンネが「水中でツバメが越冬しているのを見た!」と言ったのです。もしかしたら、もしかすると、本当に北欧では、冬に氷の下からツバメが獲れるのかもしれません。

 私の現在の常識では、ツバメが水中で越冬していることなんてあり得ませんが、実際は異なるかもしれません。

 なので、私は思いました。

「18世紀の学者になったつもりでバカ真面目に調べてみよう!」

(実際は昔読んだこの本の挿絵の印象が強すぎて、ちょっと北欧の凍った湖に行ってみたいなあ、という謎の憧れを抱いていただけです)

 

アイス・フィッシングに行こう!

 突然ですが、Ice-fishingアイスフィッシングというものをご存知でしょうか?

 冬に湖や海の上に張った氷に穴を開けて、その穴から釣り糸を垂らし、釣りをすることです。日本では、よくワカサギ釣りと言われていますが、あれもアイス・フィッシングの一つです。

 さて、冬のある日。

冬のある日。でも、もはやほとんど春
冬のある日。でも、もはやほとんど春

 私はとあるフィンランド人の車に乗せてもらって、アイス・フィッシングに来ていました。もちろん、魚をとることも目的ですが、ツバメが本当に獲れないかとを確かめることも目的でした。本当に本気でツバメを狙うなら、オラウス・マグヌスの挿絵にあるように、氷を割って、網でツバメを獲るのが一番いいのでしょう。しかし、それはあまりにも難易度が高いので、釣りを試すことにしたのです。

 まずはアイスドリルという道具で凍った海の氷に穴を開けます。私は今までこの道具のことを「氷穴ぐるぐる」とか「ワカサギ釣りのネジネジ」などと呼んでいましたが、このブログ記事を書くにあたって調べてみると、アイスドリルと書かれていました。言われてみれば、見るからにドリルっぽい道具ですね。

 そして、釣り糸の先についた釣り針に餌をつけて、先ほど開けた氷の穴に落として、糸を垂らしました。あとは待つだけです。ちなみに、餌は、日本のワカサギ釣りと同様に、ハエのウジ虫だった気がしたのですが、実際何で釣っていたのか、よく覚えていません。

氷にネジネジ(アイスドリル)で穴をあけた
氷にネジネジ(アイスドリル)で穴をあけた

 

アイス・フィッシング大好きフィンランド人

 さあ、結果はどうなった…という話に移る前に。

 私をこのアイス・フィッシングに連れてきてくれた、とあるフィンランド人の話をします。

 そのフィンランド人の女性は、オウル大学で日本語を勉強していた学生で、オウル大学の日本語の先生に、「もしIcefishingに興味がある日本の留学生がいたら、連れて行ってあげるので、知らせてあげてほしい」と頼んだようなのです。その先生が私たち日本人留学生に連絡をくれました。

 私は良い機会だと思って、頼むことにしました。

 私はワカサギ釣りはしたことがあるので、経験者といえば経験者ですが、フィンランドの魚には興味がありました。ワカサギ釣りは楽しいし、アイス・フィッシングも楽しいに決まっています。魚を捌く(内臓を取り出す)のに、抵抗があるひとはちょっと考えた方がいいかもしれませんが、そうでなければ、試してみるといいと思います。

 おもしろいことに、フィンランドでは、アイス・フィッシングが競技となっています。競技は、決められた時間内に、釣れた魚の数や重さを競うものです。そのフィンランド人の女性は、競技によく参加しているようで、今回も競技用アイス・フィッシンググッズを持参していました。

 ちなみに、いく途中の車の中で恐る恐る冗談のつもりで、

「ツバメって釣れることあるの?」

と聞いてみたところ、

「Häh?」

と聞き返されましたが、

「あ、いや何もないです!」

と言って聞くのをやめました。頭おかしいと思われるのは嫌でした。いや、釣れるわけがないって思ってはいるけど、億が一の可能性も捨てきれないじゃないですか。ね〜。

 

釣りの成果

 どれくらいの時間、釣りをしていたのかもよく覚えていません。でも、どれだけ長いこと釣りをしても、ツバメが釣れる気配がありません。やはり、いないのでしょうか。

1回目のice fishing。オレンジ色の鰭の緑がかった魚がahven (英:perch)。

 でも、日本では見ない魚がたくさん釣れました。日本では、ツバメは釣れることなんてないですが、これだけ日本にはいない珍しい魚が釣れるということは、フィンランドでツバメが釣れる可能性を感じないでもないような気もしないでもありません。

 なので、もう一度アイス・フィッシングに連れて行ってほしいと頼みました(頭の中は美味しいお魚と、「釣れたときの快感をもう一度味わいたい!」という思いでいっぱいでしたが、ほんの少しだけツバメのことも考えていたかもしれません)。

2回目のicefishing

 しかし、2回目も釣れませんでした。

 ツバメはやはり水中にはいないのでしょうか。

 18世紀の学者になったつもりで、ツバメが釣れない理由を丁寧に考えてみると、その理由はたくさん思い浮かびました。

  1. 私が釣っている場所にはツバメがいない。
  2. ツバメは釣りでは釣れない。
  3. 使っている餌がツバメ用の餌ではない。
  4. 昔は水の中にいたが、今は何らかの理由で水の中に生息しなくなった。
  5. オラウス・マグヌスやリンネが嘘をついた。

「いや、待てよ」

 色々疑う前に、元の文献に戻るべき時かもしれません。色々見逃している可能性しか感じないです。北方民族文化誌を読んでみました。

ツバメたちはくちばしとくちばし、翼と翼、脚と脚をくくり、川に沈められる。というのも、その時期になると、甘美な歌をうたった後、このように沈められ、そして春の訪れとともに無事に水から飛び出し、古巣を探したり、生まれつきの習性から新しい巣をつくることはよく知られているからである。

(『北方民族文化誌』オラウス・マグヌス著 1555年 谷口幸男訳 渓水社 p.446)

 ラテン語から翻訳されているせいか、ちょっと何を言っているのか、よくわからないです……ね。

 ですが、どうやら、ツバメを川に人工的に沈めていたらしきことが書いてあります。つまり、ツバメが釣れなかったのは、昔のように、ツバメをくくって、水の中に沈めるという習慣がなくなったから?? それさえも意味は分かりませんが、そういうことにしておきましょう!

 18世紀の学者ごっこ終わり。

 いや。なんで18世紀の学者は水中冬眠説を信じていたんだ!? オラウス・マグヌスが書いた原本をちゃんと読めよ! そもそも水中で自然に冬眠してないやん!!

 よし、解決!

 

獲れたお魚の種類

 どうでもいい話は終わりです。おさかな、いっぱい獲れました〜。

ahven(Perca fluciatilis)に加えて、何かの魚の卵巣もゲット!
kiiski (Gymnocephalus cernuus) という魚に見える

 オレンジ色の毒々しい鰭を持ち、縦縞のある草色のボディを持つ魚は、フィンランド語でAhvenアハヴェン、英名がEuropean perch(Perca fluviatilis)、日本語ではパーチと呼ばれ、フィンランドではメジャーな魚です。そして、食べると美味しいです。驚くほど、身と皮が剥がれやすいので、捌くのがラクでびっくりします。

 この魚の名前を聞くたびに、Ahvenanmaaという島の名前の由来はこの魚ahvenなのだろうかというどうでもいい疑問が頭に浮かびます(フィンランドとスウェーデンの間にある、スウェーデン語が公用語の島。新渡戸稲造の像がありますよ)。

 私がフィンランド人から教わった、この魚のおすすめの食べ方は、輪切りにしたレモンとテキトーに切った玉ねぎを、テキトーに並べた魚の上にのせて、塩をかけて、オーブンで焼くことです。この調理方法で食べたら、めちゃくちゃうまくて感動しました。量はかなり多かったですが、もちろん全部食べました。

 この料理の食べかけの汚い写真も残っていたので、載せておきます。

当時の私は散々食い荒らした後に写真を撮ったらしい。つまり、美味かったのだ。
おまけ。ぺきぺきの氷。彼氏さんもいい人だったと思う。

 それでは〜。

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