オーロラをフィンランド語で“Revontulet”といいます1。
“Revon”は「キツネの〜」という意味で、“repo(キツネ)”という古語から来ています。“tulet”は「火」という意味で、“tuli(火)”の複数形です。

つまり、オーロラのフィンランド語を直訳すると、「キツネの火」という意味になります。
これが北欧の先住民族サーミの伝承に由来します、と言われると、いかにもな内容で、納得しそうになるのですが、私は納得できませんでした。
その理由をこれから説明します。
オーロラはなぜ「狐火」と呼ばれるのか?
フィンランド政府観光局(日本語アカウント)では、オーロラの伝承について、次のように紹介しています。
サーミの伝説によれば、オーロラは、キツネが北極圏の丘を走るとき、尻尾が雪原に触れ、それが火花となって巻き上がり、夜空に光となって現れるのだとのこと。オーロラがフィンランド語で、「狐火」を意味するレヴォントゥレット(revontulet)と呼ばれのは、そんな伝説に由来しています。
— フィンランド政府観光局 (@visitfinlandjp) December 26, 2015
サーミの伝説によれば、オーロラは、キツネが北極圏の丘を走るとき、尻尾が雪原に触れ、それが火花となって巻き上がり、夜空に光となって現れるのだとのこと。オーロラがフィンランド語で、「狐火」を意味するレヴォントゥレット(revontulet)と呼ばれのは、そんな伝説に由来しています。
この話を聞くと、「へ〜」と納得しそうになります。
キツネの尻尾が火花を散らすなんて、なんというファンタジーでしょう。それが空に舞い上がって、オーロラになると聞くと、とてもロマンティックで素敵な風景を思い浮かべてしまいます。

うん、この話自体はいいのです。
フィンランドの伝承として紹介するのであれば……。
しかし、「サーミの伝説」という部分には引っかかります。
“Revontulet”「狐火」:キツネが起こした火花が巻き上がって、オーロラになるという伝承が元になった言葉
オーロラを起こすキツネとサーミの伝承は関係ない?
北サーミ語で、オーロラは
【単数】“guovssu”
【複数】“guovssahasat”
と言います。
この単語は、 “Siberian Jay” 「アカオカケス Perisoreus infaustus」というカラス科の鳥を指す言葉でもあります。

この鳥の赤い羽毛の色や、ちょこちょこと気まぐれに動く様子がオーロラを連想させるため、この言葉が使われているのではないか、と考えられています。
さて。
この時点で、「あれれ??」と疑問を覚えます。
サーミ語では、キツネではないのです。鳥なのです。
つまり、少なくとも言葉の上では、サーミにとってのオーロラは「狐が起こす火」ではないのです。
北サーミ語の「オーロラ」を表す言葉“guovssu”や“guovssahasat”には「キツネ」の意味はない
Revontuletという言葉の由来と意味
では、火キツネの伝承はどこから来たのでしょうか?
フィンランド気象研究所によると、その由来は旧約聖書の中に出てくる、空に火を吐くリヴァイアサンや、火花を散らすベヒモスにあるそうです。

実際、南サヴォやエストニアの民間伝承では、北極海で騒ぐリヴァイアサンの鱗に太陽の光が反射して、空で燃えるオーロラになるという話が伝わっています。
リヴァイアサンは、伝承の過程で、より身近な動物であるキツネに変わりました。
フィンランドの伝承というだけでなく、まさかのキリスト教(ユダヤ教?)由来という、不思議なオチです。
ちなみに、“revo”(キツネ) というのは、スウェーデン語の“räv”(キツネ)に由来するとされていて、ゲルマン語系の言葉と考えられています。
つまり、単語も伝承も南から来ていることになります。
このことから、キツネが起こす火花がオーロラを起こすという伝承は、サーミの伝承によるものではないことがわかります。
火を起こすキツネの正体は、旧約聖書のリヴァイアサンやベヒモスに由来する
→サーミの伝承ではない
サーミの伝承:オーロラは死者の魂の象徴?
では、サーミ自体の伝承は、どうなっているのでしょうか?
多くの北方民族では、オーロラは死者の魂と結び付けられて考えられてきました。
Lapland.fiによると、北サーミの人々は、アカオカケスを狩人の魂の宿る鳥と信じていたそうです。そのため、アカオカケスを殺すと、狩人に災いが起こるそうです。
そして、このアカオカケスと同じ名を冠するオーロラも、魂と結びついた存在でした。
また、スコルトサーミの伝承では、殺された人が死後の世界で血を流して、オーロラになるとされています。
サーミの伝承の中には、口笛を吹いたり、手を振ったりして、オーロラに気が付かれると、首をちょん切られてしまうという話もあります(参考サイト)。北アメリカでも同様に口笛を吹くと危険だとする話もあります。
極域のほかの地域でも、

| 地域 | 伝承 |
| グリーンランド イヌイット | 死産した子供がセイウチの頭蓋骨で遊んでいる |
| アメリカやシベリア 先住民 | 死者が空で馬に乗っているor遊んでいる |
| インディアン マンダン族 | 敵の部族を入れた巨大な鍋を熱する炎 |
| 古い北欧民話 | 燃え上がるオーロラは神の怒り |
| ヴァイキング | 女神ヴァルキューレの盾の光の反射 |
| デンマーク | 北に旅立った白鳥の群れが閉じ込められた氷が反射 |
| ロシア | 夫の留守中に女性を誘惑する炎の竜 |
| スコットランド | 悪天候の前触れ |
など、現在のようなハッピーなイメージとは裏腹に、オーロラは死者が起こす現象や悪い予兆と考えられることが多かったようです。
面白いですね!
サーミの伝承では、オーロラは死者の魂が宿るものと考えられていた!
もう一つの意外な真実:オーロラの音について
もう一つ面白い話があります。
サーミ語の“guovssu”を「聞こえる光」と訳していることがあります。
つまり、オーロラから音が聞こえるというのです。
その音は、パチパチとか、シューとか、カサカサとかいう音であるそうです。しかも、この音、日本でかつてオーロラが見られたときも聞こえたようなのです。

ですが、これまで、科学者たちからは、オーロラから音が聞こえるという説は否定されてきました。
なぜなら、オーロラは100km以上の上空で発生しており、その音が地上に聞こえることは不可能だと考えられてきたからです。
そのため、従来は地上の植物の揺れる音や風の音を、オーロラの音と間違えてしまったのだろうと考えられてきました。
しかし、2012年、複数の人に音が聞こえた方向を指してもらうことで、この音が地上から70m上空、つまり木の高さよりもはるかに高い場所で発生する音であることが証明されました(National Geographicより)。
さらに、2016年には、実際に、この音が地上から75mほどの高度で発生していることが証明されました。
このオーロラの音は、75m上空にある逆転層と呼ばれる空気の層が蓋となって、静電気が溜まっていたところに、太陽の活動が非常に活発になって、逆転層が壊されて、電気が大量に放電されることで起こります。
つまり、オーロラがかなり強い時にしか起きない現象です。音も小さいため、これまでは確認されていませんでした。
ここで、注意しないといけないのは、オーロラ自体が直接音を出しているわけではないことです。
ただ、細かいことを言うと面倒臭いやつになってしまうので、オーロラの音と言っても差し支えないでしょう。
おばあちゃんの知恵袋的な古い伝承が、科学に勝利したようで、気持ちの良い話ですね。
- サーミ語の“guovssu”「オーロラ」は、「聞こえる光」と訳すことがある
- 最近、オーロラが出るときに音が鳴ることが科学的に証明された
ついでに、“guovssahas”というサーミ語の曲もあるので、ご紹介しておきます。
まとめ
この記事では、フィンランド語の「Revontulet」という言葉の由来や、サーミの伝承におけるオーロラの捉え方、そしてオーロラから音が聞こえるという科学的な発見について解説しました。
- “Revontulet”の伝承:おそらく旧約聖書から着想を得たフィンランドの伝承
- サーミのオーロラ伝承
- アカオカケスと同様に、死者の魂が宿る現象
- 「聞こえる光」
→実際にオーロラ発生時に音が鳴っていた
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もっと詳しく知りたい方へ:オーロラ関連リンク集
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参考文献
- 『一生に一度は見たい絶景の楽しみ方 オーロラ・ウォッチングガイド』赤祖父俊一 監修 2018 誠文堂新光社
- 『オーロラ・ウォッチング オーロラに会いにいこう』上出洋介 監修 2005 誠文堂新光社
- 『オーロラ 世界で一番美しい光』Pál Brekke 2015 山と渓谷社
脚注
- オーロラを表すフィンランド語
Etelä-Pohjanmaa‥”rutjat”または”Ruijan valkea”(ノルウェーの白光)
Pohjois-Häme‥”välyt palaa”(光が燃える)や”pohjanen välyää”(北が燃える)
Kankaanpää‥”pohjonen seilaa”(北が航海する)
Lappi‥”taivaanvalkeat”(空の白光) ↩︎






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