サーミは北欧の先住民であり、その居住地は北極圏です。彼らの伝統的な住居は、この極寒にどう対応していたのでしょうか?
サーミ伝統の住居の種類
サーミの建物の名称はまちまちで、統一されていません。
サーミの伝統住居は、地域や用途によって名称がまちまちなのか、資料によって混乱が見られます。しかし、大きく分けると、「移動用のテント」と「半定住用の芝土小屋」の2つに分類できます。
本記事では①lávvu(移動用テント)、②goahti / ③gamme(半定住用の芝土小屋)の3つに分けて解説します。
①lávvu(ラーヴ)
サーミ人といえば、トナカイ遊牧民のイメージがある方も多いかと思います。
”lávvu“は、トナカイ放牧の移動時に使用されるテントです。“goahti”の中で、特に移動に適したものをこう呼んでいるのではないかと思います。
形は、アメリカ・インディアンのテントに近いですが、強い風に対応するため、高さが抑えられています。
30分程度で組み立てや分解ができるそうです。バラバラにした資材は、トナカイのそりで運んで移動します。
②goahti(ゴアティ)
『世界居住文化大図鑑 人と自然の共生の物語』によると、サーミ語で建物のことを“goahti”と呼びます。
“goahti”は、サーミ語で「建物」を意味します。そのため資料によって定住用、移動用と解釈が分かれますが、特に円錐形の芝土小屋を指すことが多いようです。
これは、フィンランド語の“kota”に相当する言葉です。
湾曲した樺の木を骨組みとして、周りを丸木で囲い、板や布、芝土などで覆って作ります。芝土を用いたものを“darfegoahti”と呼ぶことがあります。
③gamme(ガーメ)

“gamme”は芝の家です。形は、ドーム型やカマボコ型のものがあります。
本によっては、“goahti”と区別されていないこともあります。
湾曲した樺の木を骨組みとして、丸太や厚板、樺皮、芝土で覆って作ります。
高床式の貯蔵庫(njalla/áitti)
サーミ人は、食料や家財道具の貯蔵に、1〜3本以上の柱で支えられた、高床式倉庫を使っていました。これは、クズリやネズミ、テンなどの獣から、守るために地面から高い位置に建てられました。
まとめ:サーミの伝統的住居
本記事では、lávvuを遊牧用テント、goahti/gammeを半定住用の芝土小屋に大別しました。
| 名称 | 用途 | 形 | 材料 | 大きさ |
| Lávvu (テント) | 移動用 | 円錐形 | ・木の柱 ・トナカイ皮 ・帆布 | ・直径 4-6m ・高さ 4-6m |
| Goahti (芝土小屋) | 半恒久的住居 | 円錐形 | ・樺木フレーム ・芝土 ・樺皮 ・トナカイ皮 ・帆布 | ・直径 4-6m ・高さ 2.5-3m |
| Gamme (芝土小屋) | 半恒久的住居 | ドーム型 カマボコ型 | ・樺木フレーム ・樺皮 ・芝土 | ・直径 3-5m ・高さ 2-2.5m |
※goahtiは「建物」を指しているようなので、参考資料によっては、他の住居スタイルを含むこともあります。ご注意ください。
過酷な自然と暮らしの知恵
建物の構造と機能
サーミの居住域で広くみられるという、“gamme”から、過酷な極域環境に耐える仕組みを見ていきましょう。
この建物は積層構造になっています。
- 基本構造:湾曲した樺の丸木による頑丈なフレーム。
- 内側の木材層;厚板で内部を張り、基礎構造と気密性を確保。
- 防水層:樺皮(Birch Bark)を使い、雨や湿気から建物を保護。
- 断熱層:厚い芝草(Turf/Sod)で覆い、冷気を遮断。
湾曲した丸木のフレームは、ツンドラの強風に耐える強さを持っています。このフレームと、厚板の層は、外を覆う芝土を支える基礎になっています。
芝土は、建材として、ノルウェー(芝屋根やgamme)やアイスランド、ロシア、北米などでも使われています。乾燥した芝は空気の層を多く含み、断熱効果が高いことから、寒い地方で古くから使われています。
意外と重要なのが、樺皮です。樺の皮は、古くから建物に防水機能を持たせるために使われてきました。
暖房と換気
サーミの住居では、炉を中心に生活が行われていました。
建物の中心に炉があることで、部屋全体に熱が均等に広がります。暖気は屋根の天窓から効率的に排出され、扉の隙間からの冷気が空気の流れ(換気)を生み出します。
内部の構造と文化
建物の入り口は南を向くように建てられました。建物内は区画分けされており、社会構造や儀礼的規範を反映していました。

| 内部区画 | 位置 | 説明 |
| árran | 中央 | 中央の炉。 建物の心臓部。 |
| boaššu | 北側 (奥側) | 男性の領域。神聖な場所。 狩猟具、野生の獲物、goavddis(儀礼用ドラム)の置き場。 |
| uksa | 南側 (入口側) | 世俗的な空間。 訪問者の席。 |
| loido | 東西 (左右) | 寝床、日常生活、作業の場所。 |
住居の変遷:過去から現在まで
現在のサーミ人は、一般的な北欧式の住宅に住んでいます。
しかし、すべての伝統的な建物が失われたわけではありません。現代的なものを取り入れながら、現在もトナカイの放牧などに使われています。
遊牧生活は19〜20世紀半ばにかけて衰退しましたが、現在でもlávvuは現役です。
定住的生活から季節性の移動生活へ
ノルウェー最北部の遺跡(Slettnes)からは、紀元前2000年から紀元0年にかけて、サーミの住居が大型の長方形から小型の円形へと変化したことが分かっています(1→3)。
- 大型の長方形の家屋。掘り下げられた2つの炉。
- 中型楕円形の小屋。単一の炉を持ち、床が周囲の地形よりもわずかに低い。
- 小型円形の小屋。単一の炉。
考古学の分野では、長方形の家屋は定住、円形の家屋は移動性生活と関係していることが知られています。円形の建物は、持ち運び可能な材料を使用しても、構造的な安全性を確保しやすいと考えられているからです。
つまり、この時期に、サーミは、定住生活から、季節的な移動のある生活へ変遷したと考えられています。
牧畜生活の始まり
フィンランドのKilpisjärvi(Gilbbesjávri)で行われた研究では、サーミ人がトナカイを飼育し始めたのは9世紀頃と考えられています。より移動性の高い遊牧生活に移行したのは、15世紀頃です。
サーミ人が遊牧生活を始めたのは、意外と最近なんですね!!
伝統的な生活様式の衰退と強制的な定住化
サーミの伝統的な住居からの移行は、北欧諸国(ノルウェー、スウェーデン、フィンランド)によるキリスト教啓蒙活動や同化政策、近代化を理由として、20世紀に加速しました。
- キリスト教啓蒙活動:18世紀に領土確定のために、サーミ人を自国の教会に所属させることを推進
- 同化政策:19〜20世紀半ば、政府は国民国家として統一を図るため、言語や民族の統一などの政策を実行
(=サーミ人が同化あるいは分離される原因) - 世界大戦:戦争により元々住んでいた家や文化が物理的に破壊される
- 近代化:近代的な生活の豊かさがサーミの生活への劣等感を抱かせた
このような背景から、サーミの大多数は現代のスカンジナビア様式の住宅に定住して住むようになり、サーミ語を話す人々の割合も減少しました。
現在の伝統住居の使用状況
伝統的な住居が完全に姿を消したわけではありません。現在、用途が変化しながらも継続して使用されています。
goahti / gamme(芝土小屋)
半恒久的な芝土小屋(goahtiやgamme)は、多くの地域で住居としての役割を終えましたが、現在でも約4000年前が遺跡として残っていたり 、文化的保存や再現のために建てられたりしています 。
goahtiは、フィンランドでいうkota(goahtiのフィンランド語)などに形を変えて、mökkiの一部や観光施設として、現代でも利用されています。
lávvu(移動式テント)
材料は変化しました(ナイロンなど)が、lávvuは、現在でも現役の移動用住居として、トナカイ牧畜を続ける少数のサーミの人々(約10%未満)によって使用され続けています。
- 生活用:トナカイの短期間の放牧や移動にを使用 。
- 娯楽・教育用:学校、幼稚園での活動やレクリエーションといった文化的な目的で人気に。
このように、サーミの住居は、遊牧的な生活様式が衰退し定住化が進んだ今でも、トナカイ遊牧の伝統が残る地域で、移動の道具として、また文化的なシンボルとして存在し続けています。
旅行で見られるサーミの住居スポット
| 国 | 地域 | 博物館 | 展示内容 |
| フィンランド | Inari | Siida | フィンランドのサーミ文化と歴史など |
| Sevettijärvi | Skolt Sámi Heritage House | スコルトサーミの文化と歴史など | |
| ノルウェー | Karasjok | Riddo Duottar Museat | サーミの歴史と文化など |
| Oslo | Norsk Folkemuseum | サーミの伝統的な建物などの展示 | |
| スウェーデン | Jokkmokk | Ájtte | スウェーデンのサーミ文化と歴史など |
| Stockholm | Skansen | サーミ人の小屋などの野外展示 |
まとめ
- サーミの住居スタイルは主に2つ
- トナカイ遊牧用:lávvu
- 半定住用:goahti / gamme
- 寒さに適応するための積層構造
- 断熱:芝草層
- 防水:樺皮層
- 基礎:湾曲樺フレーム&厚板層
- 住居の中のサーミ文化:住居の中に宗教・文化的な区画がある
- 住居スタイルの変遷
- 半定住(季節的に移動)
- トナカイ遊牧(一部のサーミのみ)
- 定住(同化政策&近代化)
定住生活から移動生活へ、そして近代化による定住化へ。
時代に翻弄されたサーミの歴史が、住居ひとつからでも、見えてきますね。
現代においても、サーミの伝統的な住居は文化のシンボルとして生き続けています。皆さんがもし北欧を訪れる機会があれば、北極圏に暮らす人々の生きた知恵と、サーミ文化と歴史を感じてみてください。
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参考文献・サイト
- 『世界移住文化大図鑑 人と自然の共生の物語』サンドラ・ピシク編 本間健太郎/前田昌弘監訳 2023 柊風舎
- 『ビジュアル版 世界の居住文化百科 さまざまな民族の伝統的住まい』ジョン・メイ著 本間健太郎訳 2013 柊風舎
- Nilsen, A. C. (2015). The Slettnes type. Proto-Sámi dwellings in Northern Norway 0-1050 AD (Master’s thesis, UiT Norges arktiske universitet).
- Seitsonen, O., & Viljanmaa, S. (2021). Transnational landscapes of Sámi reindeer: Domestication and herding in Northernmost Europe 700–1800 AD. Journal of field archaeology, 46(3), 172-191.



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