サーミの食文化とは?トナカイと共に生きる北極圏の知恵と伝統料理

サーミの食文化とは?トナカイとともに生きる北極圏の知恵と伝統 サーミ

English

 こんにちは。ズッキーです。

 サーミは、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアの4カ国にまたがる地域(Sápmiサプミ)で生活するヨーロッパ唯一の先住民族です。

 伝統的には、トナカイ放牧、漁撈、狩猟・採集をして暮らしていました。しかし、現在は外的要因もあって、昔ながらの生活を続けることは難しく、比較的伝統を保ち続けているのは、トナカイ放牧のみだと思われます。

 それでも、近年では、サーミ文化の復興や、持続可能な暮らしの観点から、サーミに元々あった自然と共生する食文化に注目が集まっています。

 北欧料理のルーツの一つでもあることから、北欧好きなら、知っておきたい食文化でもあります。

 

サーミ食文化の基盤と多様性

 元々、サーミには、八つの季節があるとされていました。

 サーミは季節ごとに、決められた場所を移動して生活していたので、その季節ごとの場所で、得られる食べ物が違っていました。また、その居住地域によっても、生活様式が異なるため、異なる食文化があったと考えられます(例:山岳サーミ vs. 海岸サーミ)。

 しかし、一般に知られているサーミの料理は少なく、日本で得られる情報は限られています。ここでは、可能な限りたくさんのサーミの料理と食べ物を紹介したいと思います。

 

 トナカイ放牧、漁撈、狩猟、および採集をメインとしてきたサーミの料理は、とてもシンプルなものが多いです。特に、トナカイは、伝統的なサーミ文化の拠り所とされてきたために、代表的な料理や食べ物が多くあります。

 まずは、食材から見ていきます。

 

 

サーミ料理に使われる主要な食材

分類食材代表的な利用方法
肉類トナカイ肉スープ、ソテー、干し肉(Goikebiergu)、燻製(Suovas)、血や骨髄も利用
ムース肉狩猟による重要な肉。煮込み料理など。
ライチョウ肉食料として狩猟される野生動物
水産物サケ・タラ類保存食としては、乾燥、塩漬け、燻製。
スープやオーブン料理にも。
ホッキョクイワナかつては日常食。現代では象徴的な高級食材。
植物クラウドベリー ビタミン源。生食、ジャム、スイーツ。
リンゴンベリー 肉料理の付け合わせ、ジャム。
アンジェリカ
地衣類
ハーブとして利用。
非常食・かさ増しとしても利用。

 サーミの食材には、居住地域による大きな違いが見られます。内陸部のサーミはトナカイ肉や淡水魚が中心でしたが、海岸部のサーミはタラやサケなどの海産物を多く食してきました。

 また、すべての部位を利用するトナカイ肉は、単なる食料ではなく、サーミの文化と経済の象徴です。血や骨髄まで余すところなく利用され、この食に対する考え方が現代の持続可能性の観点から再評価されています。

 

 

サーミ料理の代表例(トナカイ)

トナカイ肉のスープ(Bidus)

大学施設の食堂で食べたトナカイスープ
大学施設の食堂で食べたトナカイスープ

 トナカイ肉を、ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎなどと煮込んで塩で味付けしたスープです。『世界の食文化 極北』によると、トナカイ飼育をしている家庭では、骨のついたままの背肉やあばら肉を使うことが多いそうです。ナイフを使って肉を削ぎ落としながら食べるそうです。

ズッキー
ズッキー

学生だった私は、研究施設で出てきたトナカイ・スープをバクバク貪るように食べていました。私のイメージでは、日本における寿司くらいの位置づけです!

 

トナカイの干し肉

干し肉 Goikebiergu

手に持ったトナカイの干し肉
手に持ったトナカイの干し肉。ナイフでスライスして食べました。

 トナカイの干し肉は、伝統的に、生肉を保存できない春と夏に食べるお肉です。

 まだ冷涼な春のうちに、トナカイ肉を塩漬けにして干して作ります。

ズッキー
ズッキー

ラップランドのスーパーに売られています。私は、SevettijärviセヴェッティヤルヴィInariイナリのスーパーで買って食べました。ちょっとしょっぱいですし、鹿臭さもありますが、何気に私はかなり好きです。肉の色が黒っぽくて怪しげですが、問題はありません。

 

燻製干し肉 Suovas

 塩漬けにして軽く低温燻製にしたトナカイ肉。炙ったり焼いたりして食べると美味しいそうです。

 

トナカイの骨髄

トナカイの骨髄部分
トナカイの骨髄部分。家にトナカイの骨があったので

 サーミの食べ物について調べていると、必ずトナカイの骨髄の話が出てきます。トナカイの骨髄は目に良いとサーミの人々の間では考えられていて、トナカイの耳の印を見分けるのに重宝するそうです。

 骨髄は血を作る部分なので、血と同様にとても栄養があります。鳥の骨髄などと同様に、トロッとした食感のようです。血よりマイルドで美味しいそうです!

ズッキー
ズッキー

残念ながら、私は鳥の手羽元の骨髄をしゃぶったりしたくらいで、トナカイの骨髄は経験ありません。

 

トナカイの内臓

冷凍庫にあったトナカイの心臓

肝臓

 そのまま焼いて食べます。かつては生で食べていたこともあるようです。

お土産に持って行って調理してもらったトナカイのレバー
お土産に持って行って調理してもらったトナカイのレバー
ズッキー
ズッキー

美味しいレバーでした!

 

トナカイの血のパンケーキ(Varra bánnnogáhkut)

 トナカイの血と小麦粉などを混ぜて作ります。似たようなものに、トナカイの血のお団子があります。血の団子は保存食として作るそうです。

 BBC earthで血のパンケーキを食べている動画があったので、共有します。レポーターの人は、もっとクセが強いと思ったけど、味は思ったよりマイルドだと言っています。

 

トナカイのソーセージ

トナカイ肉のソーセージ(Gurpi)

 塩漬けにしたトナカイのひき肉をトナカイのトライプ(胃袋)で包み、低温で燻製にしたソーセージの一種です。

ズッキー
ズッキー

普通に美味しそうなんですけど!

 

 

血のソーセージ(Márffit)

 トナカイの腸にトナカイの血と小麦粉、香辛料などを混ぜたものを流し込んで作ります。

(ちょっとグロテスクですが、サーミの料理を紹介しているインスタグラムに載せられていたので、共有します)

 

トナカイのミルク

 トナカイと一緒に遊牧している人々は、その乳を採取し、チーズなどに加工することがあります。乳牛と比べて非常に少量しか得られないため、市場に出回ることはほとんどありません。 

 フィンランドや北欧諸国では、コーヒーにチーズを入れて飲むことがありますが、これも、サーミがトナカイのチーズを入れて飲んでいた飲み方が元になっていると聞きます。

 

 

サーミ料理の代表例(トナカイ以外)

魚の食べ方

 トナカイの他にも、湖や川の近くでは、

  • ホッキョクイワナ(サケ科の魚)
  • ノーザンパイク(カワカマス属の魚)
  • ホワイトフィッシュ(サケ科の魚)

などが燻製や塩漬けなどにして利用されてきました。サーミ料理と呼んでいいか分かりませんが、イナリで売られているホワイトフィッシュ(🇫🇮siika)の燻製はとても美味しいです。

 海の魚としては、

  • サケ科の魚
  • タラ科の魚
  • ニシン・サバの仲間

などを食べていたようです。

 魚は、直火焼き、バター焼き、薄い塩漬けの切り身のほか、揚げたり、ジャガイモと一緒にオーブンで焼いたり、スープにしたりして食べます。

 

その他:ベリー・きのこなど

リンゴンベリー

 お肉や魚、チーズなどの付け合わせで、ベリーが使われることが多いです。付け合わせとして使うことが最も多いのは、リンゴンベリーのジャムです。クラウドベリーも使われます。ビルベリーやクロウベリーなどは、砂糖漬けにして、水で希釈して、ジュースにして飲まれます。

 アラスカなどでもそうですが、ベリーは北方の人々の重要なビタミン源になります。

 その他、キノコ類・苔・樹皮(パンのかさ増しなど)も食べられます。

 食糧が圧倒的に乏しいラップランドでは、基本的に、すべてのものは余すことなく使ってきました。

 

 

現代のサーミ料理と再評価の動き

 現代では、サーミ人だからといって、常に伝統的な食べ物を食べているわけではありません。

トナカイを飼育する過程でも、子どもたちの前にトナカイ料理と電子レンジで温めた冷凍ピザやハンバーガーを並べたら、自家製のベリージュースとコーラやペプシを並べたら、後者を選ぶ子どものほうが多いという現実がある。また、トナカイ肉独特の匂いを消すためにコショウを使う若い人たちが確実に増えているという現実もある。

『世界の食文化 極北』石毛直道監修 2005 農文協

 このように、食事が現代化する中で、サーミの伝統的な食文化が見直されています。

 2004年には、「Slow Food Sápmi」が設立され、サーミの食文化を持続可能な食として再発見する動きが出てきました。新しい北欧料理の要素としても取り入れられ、伝統的な食材を使いながらも、現代的なアレンジが生まれています。

 フィンランドでも、ローカルな食べ物を使ってフィンランド料理を作るレストランなどが生まれています。

 

 

フィンランド料理との境界:どこからがサーミ料理なのか?

 こうなってくると、どこまでがサーミの料理でどこからがフィンランド料理なのかの境目が曖昧になってきます。

 例えば、トナカイのスープ(🇫🇮:Porokeitto)やトナカイ肉のソテー(🇫🇮:Poronkäristys)はフィンランド人にも一般的です。トナカイはサーミ由来ですが、トナカイ肉はフィンランドのスーパーでも手に入ります。

 サーミ料理とフィンランド料理の中間のような、「Lapland food」や「Arctic cuisine」を出すお店も多いです。

 結局、料理や食材の中身ではなく、サーミの文化体験とともに提供されるかどうかが基準になっているように思います。

 

 

旅行者でも味わえるサーミ/ラップランド料理レストラン

 純粋なサーミの料理を食べたい方は、ホームステイするしかないです。

 ですが、サーミ料理を元にしたものであれば、レストランでも気軽に楽しめます。

 ただ、基本的にトナカイ料理や地元食材の料理はブランド化しているので、お値段が高いです。大いに財布の紐を緩めてください笑

都市レストラン名コメント
フィンランドRovaniemiロヴァニエミRestaurant Niliトナカイ肉やジビエが豊富。
地元の食材にこだわる。
InariイナリRestaurant Aanaarイナリ湖畔のレストラン。
淡水魚や地元食材の洗練された料理。
LeviレヴィSaamen Kammi伝統的なサーミの小屋(gamme)で食事。
文化体験重視。
NiliPoroトナカイ放牧者が経営。
トナカイ肉がメイン。
ノルウェーAltaアルタSámi Shidaサーミ文化体験施設に併設。
Bidusなどの伝統料理を提供。
スウェーデンJukkasjärviユッカスヤルヴィOvttasサーミ文化体験施設内のレストラン。
ホッキョクイワナなどの料理をモダンに。

 

 

まとめ

 いかがでしたか?

内容のおさらい
  • サーミ料理はトナカイ肉がメインに思われがちだが、伝統的には魚やジビエ肉も重要
  • 自然のベリーを使うことでビタミンを補った
  • 過酷な環境で、食材を余すことなく使うサーミの生き方は、現代の持続可能な利用にも繋がる考え方に
  • 現代の食生活は多様化しているが、伝統食は文化の復興として再評価されている
  • ハンバーガーとコーラはやっぱり美味しい!

 もし、サーミ文化に触れる機会があれば、その食べ物についても思いを寄せて、考えてもらえれば嬉しく思います。

 それでは〜。Heippa〜! 

 

 

サーミ文化に関する関連記事

 

参考文献・サイト

  • 『世界の食文化 極北』石毛直道 監修 農文協 2005
  • 『ラップランドの自然と人 リンネのフィールドノートから』塚田秀雄 訳著 2020 古今書院
  • 『ノルウェーのサーメ学校に見る先住民族の文化伝承 ハットフェルダル・サーメ学校のユニークな教育』長谷川紀子著 2019 新評論
  • 各項目のインスタグラムの紹介文
  • Tervo, Hellevi et al. “The cultural meaning of Sámi language, costume, and food to the Sámi, from the perspective of well-being.” International journal of circumpolar health vol. 81,1 (2022): 2133349. doi:10.1080/22423982.2022.2133349
  • Rautio, A.-M., Linkowski, W. A., & Östlund, L. (2023). “They Followed the Power of the Plant”: Historical Sami Harvest and Traditional Ecological Knowledge (Tek) of Angelica archangelica in Northern Fennoscandia. Journal of Ethnobiology36(3), 617-636. https://doi.org/10.2993/0278-0771-36.3.617 (Original work published 2016)
  • Carrillo Ocampo, J. C. (2024). The Wild Arctic Char in Swedish Sápmi–from StapleIngredient to Nostalgic Food. In Dublin Gastronomy Symposium 2024–Food and Memory: Traces, Trauma and Tradition.
  • Casi, C. (2020). Sami identity and traditional livelihood practices: From non-Indigenous to Indigenous food frameworks. In Food Security in the High North (pp. 121-136). Routledge.

コメント

  1. […] そんな背景もあり、Owamni は単なるレストランではなく、食を通じた文化再生と健康改善のモデルケースとして注目されているのであります。それと同時にネイティブアメリカンの人口は増加しており、1920年頃の推計では人口約30万人とされていたのですが、現在では混血の人を含めると2020年の国勢調査では 約970万人となっており、およそ30倍に増えているということで、統計的にも影響力を取り戻しつつあると言えます。それに加えて、先住民族の食文化への再評価は世界的な潮流となりつつあり、たとえば、オーストラリアの「ブッシュフード」や北欧で広がるサーミ族料理、ハワイのネイティブハワイアン料理などが人気を博しています。 […]